へび・長すぎる

テーマ:言葉・漢字
6/2の日経新聞に早稲田大学の北村薫教授がジュール・ルナールの「博物誌」のことを書かれておりました。この本は生き物たちの姿が作者独特の筆で活写されたもので、北村さんは有名なものとして、「蝶(ちょう)/二つ折りの恋文が花の番地を捜している」を例示されていました。

私もこの本を読んだのか、この本について書かれていたことを読んだのか、記憶の中にあり、中でも「蛇(へび)/長すぎる」という、短すぎる表現が特に印象に残っていました。

北村教授によれば、こんなに短い表現でも訳者によって異なることを紹介されており、例えば岸田國士訳では「蛇/ながすぎる」、辻昶訳では「へび/長すぎる」、さらに白水社の新装版では「へび/ながすぎる」。

つまり、蛇や長が漢字になったり、ひらがなになったり。「ながすぎる」とひらがなを使うと蛇のにょろりとした感じが出るし、「長すぎる」と短くすると短すぎるところにこっけい味が出る、というわけですね。

そこで北村教授は学生に原文を見せ、彼らがどう訳すかをテストしてみた。先生が想定した答えは「蛇/長すぎる」「へび/長すぎる」「蛇/ながすぎる」「へび/ながすぎる」「その他」だけだったのですが、学生たちの創作力は予想以上に旺盛。

まず「あまりに長い・余りにも長すぎる」など「余り(あまり)に(も)」をつけたもの。さらに、「へび/長いにもほどがあろうよ」、あるいは「長~い」といったシンプルながら本質をついたもの。そしてメデューサを思い浮かべた「へび/髪をのばしすぎた」といったものなど。また、「ヘビ」とカタカナ表記したものも相当数あり。

「勿論(もちろん)、ここに正解などはない。言葉と言葉の間に人が入った時、いかに創造性が発揮されるものか、訳者の個性が表れるものか、それを生き生きとした形で、再確認出来た」という先生の結語に納得。

ちなみに原文(フランス語)は Le Serpent(蛇)/Trop long. 英語ならToo longでしょうね。さて、皆さんは何と訳します?私ですか?原語の発音どおり「トロロ~ん」かな。  

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