乙な発想

テーマ:曳山・歌舞伎
どちらが優れているか判断しかねることを「甲乙つけがたい」などと申しますが、この場合、甲が第一位で乙が第二位ということであります。「乙」というのはそう言えば数字の2に似ておりますが、2番目というより「乙る」というか「落ちる」「劣る」というイメージがつきまといます。

一方、「乙なもんだね~」とか「乙な事を言う」などと、ちょっと小粋な感じでこの「乙」という言葉が使われることがあります。この場合は「普通と違ってなかなか面白い味わいのあるさま」を意味するわけですが、これって邦楽用語だったんですね。

邦楽で高い音域の音、調子の高い音を「甲」というそうですが、この場合「甲」は「こう」ではなく「かん」と読みます。「かんだかい声」は漢字で「甲高い声」と書くんですね。一方、この甲(かん)より一段低い音を「乙」と申します。洋楽風に申しますと「一オクターブ下がる」ということでしょうかね。

義太夫の稽古をしておりますと、師匠から「そこはね、乙に入った方がいいよ」などと言われることがあります。ずっと高い調子が続いているところで、それ以上に音を高く張り上げて「キーキー声」で語るよりも、むしろ一段下げてしまった方が聞きやすい、というわけです。

確かに、ものにさえすれば語るほうもその方が楽なわけですが、一段下げて唄うというのは以外に勇気が要って難しいものです。こんな感じで、低い音が「普通と違ってなかなか味わい深いやんか」ということで、ここから「乙なもの」という言葉が生まれたようです。

商売あるいは社会生活の中で我々は、ともすれば甲高い音を発することばかりに注意が行きがちですが、一段下がってみるという「乙な発想」で活路が開けることがあるのかもしれませんね。

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