指身と鮓

テーマ:曳山・歌舞伎
歌舞伎「引窓」で、長年離れて暮らしていた実子の長五郎が会いに来た時に、母親がせっかくだから「なますでもしてあげましょう」という場面があります。今だと「なます」って酢の物というかただの和え物で、わざわざそんなものをという感じですが、当時は生魚を調味料で和えたものを「なます」と称し、ご馳走だったわけですね。

ところで、皆さんは「お刺身」派?それとも「おつくり」派?私の場合、子どもの頃は「おつくり」と呼んでいたような気がするのですが、今ではもっぱら「お刺身」と呼びます。「おつくり」は「作る」という動作から生まれたもので、主に関西で使われる用語のようです。

しかし、何で「刺身」というのかよくわかりません。「切り身」の「切る」を忌言葉として避けたんだとか、切り身にすると魚の種類がわからなくなるので尾鰭を切り身に刺したからだ、とか種々説があるようですが、「魚食文化の系譜」(雄山閣)という本には、刺身は元々「指身」だったんだと書かれておりました。

つまり、鰭(ひれ)を指しそえて進むにより「さしみ」と呼ぶようになったのであって、「刺」は誤記だと。しかし「指身」だと、どうも間違って切っちゃった指が混じって皿に乗っかってそうだし、そうでなくても生ぬるい感じがして食欲が湧きませんね。

一方、魚の消費量は減ってもこれだけは大人気の「すし」。これを表す漢字も「寿司」「鮨」「鮓」と色々とあります。wikipediaには「京都では朝廷へ献上することを考慮し『寿司』と書き、江戸では『鮨』、大坂では『鮓』の字が使用される」とありますが、ホンマでしょうか?

「寿司」は当て字だと思いますが、上記書籍によれば、中国では「鮨」は今でいうところの塩辛のこと、「鮓」は米と塩、魚貝類を漬けて発酵させたもの、つまり「なれずし」のことを指したようです。だから「ふなずし」は正確には「鮒鮓」と書くべきなんでしょうね。

さて歌舞伎には「義経千本桜・すし屋の場」というのもあるのですが、このお寿司屋さんには板前さんも居なければカウンターもない。「すし桶」が並んでいるだけ。あの桶は「なれずし」の桶だったんですね。だからこの場も「鮓屋」が正しいんでしょうけど、確かに生首をすし桶に入れておいても臭いに紛れてわからんはずだわ。

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