負けてまへんで

テーマ:油甚本店
私は、お世辞にも愛想がいいとはいえませんので、日曜日以外は店頭には立たず、もっぱら裏方の仕事を担当しております。

先日もそんな具合で、店の裏手で瓶詰め胡麻油の包装をしておりますと、店頭で大阪のおばちゃん風の声で「サービスしてえな」というダミ声が聞こえてまいりました。商品を買った後に「ちょっとおまけしといて」という方はごくたまにいらっしゃいますが、何も買わないうちから「サービスしてえな」から入るお客さんは初めてです。

店の者が「とりあえずお買物していただかないと」と申しますと、「買うがな、買うさかいまけて~な」という声が聞こえます。しばらくやり取りに耳をそばだてることにいたしました。

「儲けの少ない商売ですさかい、大したおまけはできないんですよ」というと、おもむろに「きらずあげ」(おからを菜種油で揚げたお菓子)を取って、「これサービスやな」と勝手に決めてるし。

たまりかねた83歳の番頭さん、「サービスて、280円するんやぞ、このお菓子は!」と、おばちゃんを嗜めるように言いました。おばちゃん、ようやく悟ったのか、椿油と胡麻油を買う決断をしたようでしたが、今度は「これ買うさかい、○○円にしとこな」と無茶なダンピングを要求。

「いやらしいことを言うないやぁ」と番頭さんも、怒りではなく適度な不快感を込めた口調で返します。するとついに出ました、大阪のおばちゃんの決め台詞。

「あのなぁ、大阪ではまず値切るんが当たり前なんや!」

「わしかて、昔大阪にいたけど当たり前と違たぞ」


ほどなくいたしまして、レジにチャリンとお金を入れる音がし、続いて「おおきに、ありがとうございましたっ!」という番頭さんの声が...。

あれあれ商売成立でしょうか。お客さんが立ち去ったのを見て店に出まして、「今のお客さん買わあったん?」と聞きますと、「はいっ」

「まけたん?」

「負けてへんでぇ」




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