人生を語る書
写真の書は、当店内の東側に飾ってあるもので、縦1m横2mほどの大きな 額に入っています。「この書は誰が書かれたの?」と、度々お客様に聞かれます。 作者は店主の旧友で、高校教諭をしておられるM氏です。この作品は、十数年前に市展で入選され、それ以来ずっと当店で飾らせてもらっています。
これは、陶淵明という人の漢詩であり、書体は隷書体と呼ばれるものだそうです。訳はこうなります。(訳のコピーをM氏から頂きました。)
人の命は、これをしっかりと何かにつなぎとめてくれる木の根や果実のヘタにあたるものとて無く、ちょっとした風にもサッと散る路上の塵のようなものだ。風のまにまにまろび別れ散る人間、それはもはや永遠に変わらぬ姿を保ち得ぬ。
だが、いや、だからこそ、この世に生れ落ちては、すべての人が兄弟としての完全な連帯感を持つ。それは必ずしも血を分け合った人々だけのことではない。歓楽の機会を得ては、楽しみつくすべく、なみなみと器に満ちた酒に、近所の仲間の集いを持とう。
盛んな若い時代は二度とやって来ぬ。一日に二度の朝はないのだ。この機会に充実した時間を過ごしておかねば、時の流れは人を待ってはくれぬ。
改めて読むといい詩です。
それにしても、書道の筆って、中学卒業以来握ったことないな…。
夏の涼味 くず桜
夏の和菓子の代表格「くず桜」
夏の食べ物は、お料理にしてもそうですが、やはり見た目の涼しげなものがいいですね。
当店の「くず桜」は、くず饅頭に桜の葉を巻いたものです。
昔から、葛の透明感は水晶に見立てられたほどで、くず饅頭には「水晶包子(すいそうほうす」という別名もあるそうです。
それほどの透明感が、「葛」という植物の根からとれる澱粉でできている、というのがとても不思議です。
写真は、店主が水解きしたくず粉と砂糖を混ぜて、鍋で煉っているところです。
それでこしあんをくるむとこちらのように。まだ葛が白いです。
それをせいろで蒸すと、こんな風に…。
古くより、「葛」は風邪薬に用いられたり、葛湯として病人食になったりと、日本人の生活に無くてはならないものでした。葛の根の部分に着目した昔の人に拍手!ですね。
くず桜は冷やして食べていただくと、いっそう美味しいのですが、冷蔵庫の中に長く入れすぎると固くなり、かえって白っぽくなってしまいますので注意して下さいね。冷蔵庫で冷やす時間は、10~20分程度で十分かと思います。
夏のティータイムに和の趣はいかがですか?葛のツルンとした舌触りと、桜葉の香りを楽しんでみて下さい。
4×4=30?店主の四方山話
4×4=30は本当の話です。決して怪しい投資話でも、マルチ商法の勧誘でもありません。
これは、和菓子屋では古くから普通に使用している計算方法なのです。
多くの和菓子の製造過程で準備するもののひとつに、餡玉があります。生地で餡を包み込む作業をする場合、あらかじめ同じ大きさの餡を必要な数だけ準備します。この餡の固まりひとつひとつを「餡玉」と呼び、その作業のことを「餡玉を取る」と言います。
京都の和菓子屋で修業していた頃(菓子の修業以外にも、麻雀やパチンコ、お酒の修業にも日夜励んでいましたが)一日に1,000個以上の餡玉を取ることもしばしば。その際に誰からともなく教わったのがこの計算方法なのです。
4×4の場合、まず一段目に横に4個並べ、それを4列作ります。その上にピラミッド状に積み上げていくと、四段のきれいな山になります(写真)これで30個の餡玉が出来ました。
これを基本に一段目を一列増やしていくごとに10個ずつ増やせていけます。4×5は40個、4×6は50個といった具合に。また、5×8を同様に積み上げていくとちょうど100個になります。
そもそも、何でこんな計算方法が必要なん?カウントしながら取ったらエエやん。と、思われるでしょうが、数が少ない時なら未だしも、沢山取る場合はそう云う訳にもいかないのです。
小さな餡玉を取る場合、一個ずつ重さを量りながら取る訳ではなく、最初に大きさの確認をしたら、あとは感覚に任せて一定のリズムで取っていきます。(もちろん時々は確認しますが)ですから、能率良く且つ誤差が出ないようにするには、不可欠なのです。
でも、こんなん知ってても他には何の役にも立ちませんけどねェ~
「がらたて」って何?
「がらたてって何?」
連休の頃にになると観光客の方が、ウィンドウにある張り紙「がらたて」を目にして、頻繁に聞かれます。「がらたて」って何? たしかに耳慣れない言葉ですよね。
地元の方はご存じかと思いますが、粒あんの入ったおまんじゅうです。写真のように二枚のはっぱではさみ、せいろで蒸しあげています。あんこのまわりは、店によって多少違うようですが、当店のは小麦粉を主体とした生地で、もっちりとした食感です。
「がらたて」は葉っぱの名前です。この葉っぱは古くから日本に広く自生しているツル性の植物で、正式名称が「サルトリイバラ」で、別名「サンキラ」「ヒメカカラ」等、各地でいろんな名前で呼ばれています。
彦根以北の限られた地方では、これをがらたてと呼んでいるのです。そう説明すると、「ああ、サンキラか。」「赤い実の成るやつね。」「トゲがあるのよね。」「山のすそ野に生えてるやつ。」等々と、お客様の方がよく知っておられます。
この葉っぱ、私も以前に、神田山で見かけたことがあります。
九州や、四国地方のお客様で、「この葉っぱでくるんだお餅を、うちらの方では柏餅て言うのよ。」と言われる方が多くみられます。柏の葉が手に入りにくかったことから、がらたての葉で代用していたのでしょうか。
変わったところでは、長野県のある地域では、この葉っぱを使ったお菓子を「がんもどき」とか「がらくた餅」とか呼ぶそうです。
西日本にこの葉っぱを使ったお菓子は多いようですが、中身がお餅であったり、こしあんであったりと様々なようです。
当店では、塩漬けの「がらたて」の葉っぱを使っているので、中のおまんじゅうにも塩気が加わり、汗をかくこの時季にはぴったりですよ。
自家製の粒あんも自慢です。まだ食べたことないという方は、どうぞ一度ご賞味下さい。
「がらたて」の葉の別名や、他地方のこのお菓子にまつわる話を知っている方があれば、教えて下さいね。
ブログデビュー
はじめまして。駅前通りの和菓子屋「藤本屋」です。「しばらく」の茶しん様のお向かいと言えば、地元の方ならおわかりいただけるでしょうか。ういろうやだんごやがらたてや、いろいろ作って商いしております。
ブログは初めてなので、お見苦しい点もあるかと思いますが、どうかご容赦下さい。
今日はまず今月の上生菓子の紹介から。
「清流」
白餡の上に寒天をのせ、青かえでをあしらっています。
「朝顔」
小豆のこし餡をねりきり餡で包み、朝顔の形に仕上げ、真ん中に寒天をひとかけら。
夏の上生菓子には、寒天を使って涼を呼ぶものが多いです。
ねりきり餡というのは、白いんげんを使ったこし餡で、ねばりを出すために白玉粉を加えたものです。それに淡い色づけしています。店によっては、芋を使った芋ねりきりのところもあるようです。ちなみに、ねばりを出すのに小麦粉をつかったこなし餡を上生菓子に使うこともあります。
上生菓子といえば、お抹茶用のお菓子と思われがちですが、普段使いのお茶にもOK。そして意外にコーヒーなどにも合うようです。また、近頃のペットボトルのお茶は濃くおいしくなっていますよね。おしゃれなグラスに冷たいお茶をそそいで、上生菓子で「和の女子会」などいかがですか?もちろん男性陣も!
ご予約、お問い合わせは ☎0740(62)0804までどうぞ。