アートと図面

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 日本の城と言っても姫路城や松本城のような平城ではなく、山城(戦国時代の城砦)にも固定ファンが多く、その筋では高名な研究家が多数おられます。先日までウチの近所の展示場では山城の発掘資料から再現した城の全体像を鳥瞰図にした絵の展示が行われていました。

 しかし、そこに並んでいた城の絵(再現図)を見て私は違和感を覚えました。資料を基にもしくは本人自らも調査したデータを元に描かれた城の絵は細部まで描き込まれたものですが、見ていて不安にかられました。それは絵から発せられるものじゃなく、私自身からこみ上げて来るものでした。

 その答えは訪問者の感想ノートにありました。

「芸術よりコツコツ調べ上げたものの方が上」(原文ママ…だと思う)

 このコメントは志を同じくする山城ファンのものでしょう。私は何も芸術を否定することにひっかかったのではなくて、単にこのコメントを見て、ここの絵がアートと呼ばれるものではなくて図面なんだと気付いたのです。

 私は以前はクルマを写真のようにリアルに描くことに挑戦していました。大御所のところに自分の絵を持ち込んで何度か直接指導を受けたこともあります。しかしそうやって描いたリアルなクルマの絵にカーマニアは興味はありません。カーマニアは実車が好きなのであって、実物が見たい(乗りたい)のです。画家の主観の混じった絵より写真の方が良いというのも分かります。かえって派手にデフォルメされた愛車の絵のTシャツの方がよっぽどニーズがあります(クルマのイベントに行くとそういう人いっぱいいますね)。

 アート(芸術・美術)ってそういうものなんでしょうね。それに気付いて、私はフォトリアリズムを(極める前に)やめました。で、それが山城の絵と何の関係があるのかって?

 世間にはアートが好きな人とアートに興味が無い人がいて、そこの見極めを間違えてはいけないということです。あの山城の絵は図面であって、アートを見に来た人に見せるものではないのです。だってオシャレな家は多くの人が住んでみたいと思いますが、その建築図面なんて建設業界の人しか興味ないでしょ?

 そりゃ私があこがれた先生の絵のようにアートとしてなりたっているクルマの絵もありますが、先生の真似をしてても私のはアートになりえなかったし、これがアートかという疑問まで湧いてきました。最終的には見た人がどう思うかという結論になるのでしょうが、やっぱり私はアートが好きだしアートが見たい。精巧な山城の復元図よりも、若干の美化や公証の手抜きがあっても武将の雄たけびが聞こえてきそうな合戦図が見たいです。一方で、これらの精巧な図面があるから我々のような詳しくない者でも山城の絵を描くことが出来ます(この夏に描いた「つくりもん」参照)。

 この話の締めとしては主催者に、これは学術的な発表かアートかをはっきり明記して欲しいということです。感想ノートに「アートとして見ると…」とか書かれちゃ山城ファンは腹立つに決まってますから。

プロフィール

McAUTO

McAUTO

東京でイラストレーターを目指すも、いろいろあって平成11年に地元滋賀へ帰郷。

しかし北近江の風景に再会し、地元密着の画家として活動。絵以外のことにも取り組みながら創作活動に励んでいます。

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